213)がん治療に役立つ食材(14):マヌカハニー

図:ニュージーランドでのみ自生するマヌカの花から集められたマヌカハニーは、抗菌作用のあるメチルグリオキサールの含量が他の蜂蜜と比べて極めて高い。抗菌・抗炎症作用、ダメージを受けた皮膚や粘膜の修復を促進する作用、腸内環境を良くする作用などがあり、しかも栄養価が高いので、がん治療の副作用軽減や栄養補充に役立つ。


213)がん治療に役立つ食材(14):マヌカハニー


【マヌカハニーとは】
マヌカ(manuca)はニュージーランドにのみ自生するフトモモ科の低木(学名はLeptospermum Scoparium)です。
二ユージーランドの先住民のマオリ族は古くから、マヌカの葉を煎じて薬として飲用したり、外用薬として傷や火傷の治療に利用してきました。マヌカの葉には強い抗菌作用(病原菌を死滅させる作用)や抗炎症作用や創傷治癒促進作用があり、様々な感染症や創傷に効果があるからです。
マヌカの木は12月頃(ニュージーランドは南半球の国なので、夏季に当たる)、およそ4週間だけ白やピンクの可憐な花を咲かせます。このマヌカの花から採れるハチミツが「マヌカハニー(マヌカ蜂蜜)」です。
マヌカの葉と同様に、マヌカハニーも傷や火傷の治りを早め、風邪の症状や胃の痛みの緩和によく効くことが知られるようになりました。そして1980年代後半、ニュージーランドのワイカト大学のピーター・モーラン博士が、ニュージーランドの特定の土地から採れるマヌカハニーには、特別に強い抗菌力があることを明らかにして大きな話題を集めました。
ニュージーランドでは、マヌカハニーは治療目的にも利用されており、創傷、歯周病、口内炎、扁桃腺炎、皮膚疾患、胃・十二指腸潰瘍、胃がんの予防や治療などに効果を発揮することが認められています

【マヌカハニーに含まれる抗菌成分メチルグリオキサール】
一般的に蜂蜜は抗菌・抗炎症作用を持っており、多くの国で古くから民間療法として細菌感染症や口内炎などの治療に蜂蜜が使われていました。
日本薬局方では「ハチミツ」は医薬品として記載され、その効能や用法として「口唇の亀裂・あれ等に脱脂綿、ガーゼ等に浸し又は清潔な手指で患部に塗布する。その他滋養、甘味料として適量をそのまま又は適宜薄めて使用する。」と記載されています。
蜂蜜の抗菌作用は、高い浸透圧によるものや、蜂蜜に含まれるグルコースオキシダーゼ(glucose oxidase)によって発生する
過酸化水素によるものと考えられています。すなわち、浸透圧の高い濃縮状態の蜂蜜が細菌の細胞内の水分を奪うことによって死滅させ、また過酸化水素は活性酸素の一種で強い酸化力によって細菌を死滅させます。しかし、浸透圧による抗菌作用は薄めると活性が低下し、過酸化水素の抗菌作用は光や熱に不安定で、赤血球や組織中に存在するカタラーゼ(catalase:過酸化水素を分解する酵素)で失活します。
一方、マヌカハニーにはカタラーゼで失活しない抗菌成分が多く含まれている点が他の蜂蜜と異なる点です。マヌカハニーの抗菌活性の効力を査定するために、モーラン博士は「UMF(Unique Manuka Factor:ユニーク・マヌカ・ファクター)」という等級を考案しました。
UMF等級とは、よく知られている消毒薬のフェノールの抗菌効力との比較によって、UMF10とか、UMF15とかいった等級に分けられるものです。例えば、UMF10とはフェノールの10%稀釈液に相当する抗菌力を持つことを意味します。これは、皮膚や医療用具の殺菌消毒に使用されているる2%希釈フェノール液の5倍の殺菌効力を備えていることを意味します。従ってこの数値が高いほど殺菌力が増してきます。 
マヌカハニー全てにUMFが含まれているわけではありません。採取された場所によってUMF活性に違いがあり、全く含まれていない場合もあります。つまり、マヌカハニーの薬効を期待するには、UMF活性の高いものを使用する必要があるのです。ニュージーランドでは、UMF10以上のマヌカハニーは医療目的で使用されています。 
UMF含有量の多いマヌカハニーは、広範囲の病原菌に対して殺菌作用があり、抗生物質が効かない多剤耐性菌にも有効です。胃潰瘍や胃がんの原因になるヘリコバクター・ピロリ菌、歯周病や虫歯の原因となるストレプトコッカス・ミュータンス菌、その他にも黄色ブドウ球菌、サルモネラ菌、緑膿菌など多くの病原菌に対して抗菌作用を示すので、多くの感染症の予防や治療に有効です。
しかも、抗生物質のように体に必要な有益菌(乳酸菌など)まで死滅させてしまうようなこともなく、むしろ腸内の善玉菌を増やす効果があります。腸内細菌叢の悪玉菌を減らし、善玉菌を増やすことによって、腸内環境を善玉菌優位な状態に改善すると、下痢や便秘のような便通異常を改善する効果や、体の免疫力や解毒力を増強する効果が期待できます。腹部手術後の感染症の頻度を低下させ、抗がん剤治療に伴う下痢を軽減する効果も期待できます。マヌカハニーを多く摂取しても、耐性菌の出現や副作用の心配もありません。マヌカハニーに対して細菌は耐性を獲得することは無いと報告されています。安全性も多くの臨床試験で確認されています。
マヌカハニーの抗菌成分の本体は長く不明でしたが、2008年にドイツのドレスデン工科大学食品科学研究所のトーマス・ヘンレ教授が、この抗菌作用をもたらす生理活性物質の正体がメチルグリオキサール(methylglyoxal)であることを突き止めました。(Mol Nutr Food Res. 52(4):483-9. 2008年)
メチルグリオキサール(CH3-CO-CH=O or C3H4O2)は有機化合物の中で最も簡単なジアルデヒドであるグリオキサール(C2H2O2)にメチル基がついた物質です。(図参照)
メチルグリオキサールは糖の代謝(解糖系)やスレオニンの分解や脂質の酸化の過程で副産物として生成されるので、人間の体内にも存在します。
メチルグリオキサール自体はケトンとアルデヒドの両方の性質を持ち非常に反応性が高く、細胞に毒性や変異原性を示します。糖尿病ではメチルグリオキサールの生成が亢進することが 糖尿病合併症(神経障害など)の進展に関与していることが示唆されています。体内には、これを解毒する物質(グルタチオン)や酵素(グリオキサラーゼ)が存在します。
しかし一方、メチルグリオキサールはあらゆる細胞の生育を阻害するので強い抗菌活性を持っており、傷に外用すると化膿を防ぎ、経口摂取すると口腔や胃や腸の病原菌を殺菌することができるのです。
メチルグリオキサールは多くの食品中に微量ながら含まれていいますが、マヌカハニーは特にメチルグリオキサールの含量が高いのです。トーマス教授の前述の論文によると、マヌカハニーの1kg中には38~761mgのメチルグリオキサールが含まれ、これは他の蜂蜜の100倍近い含量だと言うことです。
マヌカハニーにはメチルグリオキサールの前駆物質の
ジヒドロキシアセトン(dihydroxyacetone)が多く含まれており、これがメチルグリオキサールに変化していきます。すなわち、ミツバチがマヌカの蜂蜜を採取した時点ではジヒドロキシアセトンを多く含みますがメチルグリオキサールはごく少量です。この蜂蜜が37℃に保存されると、ジヒドロキシアセトンが自然にメチルグリオキサールに変換されることが報告されています。(Carbohydr Res. 344(8):1050-3. 2009年)
マヌカハニーの抗菌力は、以前はUMF(Unique Manuka Factor:ユニーク・マヌカ・ファクター)で現されていましたが、抗菌成分の本体がメチルグリオキサールであることが判明してからは、マヌカハニーの抗菌力はメチルグリオキサールの含有量測定で正確に評価することができるようになりました。

【マヌカハニーの薬効】
マヌカハニーの抗菌活性の本体であるメチルグリオキサールは、生体内では細胞に対して毒性を持ちますが、体内ではメチルグリオキサールの反応性を不活化するグルタチオンや、分解する酵素の働きで、解毒されます。
一方、マヌカハニー中のメチルグリオキサールが病原菌に直接反応できる口腔内や胃や腸管内の感染症に対しては、殺菌効果が期待できます。以下のような薬効が報告されています。
1)
虫歯の原因菌ミュータンス菌にも顕著な効果が報告されていますので、口腔内に含んだり、歯茎に擦り込むようにすれば、口腔内が殺菌されて口臭や虫歯や歯周病(歯槽膿漏)の予防に効果があります。 
2)胃潰瘍や胃がんの原因になる
ヘリコバクター・ピロリ菌に対しても優れた抗菌活性が認められています。日本人のピロリ菌による感染率は50%以上と言われ、50歳以上では約80%が感染していると言われています。医療現場では、複数の抗生物質と胃酸分泌阻害剤の組合わせでピロリ菌の除菌が行われていますが、除菌成功率はそれほど高くありません。ピロリ菌は何処にでも存在する常在菌であり、食物などと共に口から再感染します。抗生物質の使用は下痢の副作用や耐性菌の出現などの副作用もあり、頻回の使用は問題があります。したがって、日頃からマヌカハニーを摂取してピロリ菌を除菌することは、胃潰瘍や胃がんの予防に理想的な対策だと言えます。
3)マヌカハニーは抗菌作用だけでなく、抗ウイルス作用や抗炎症作用もあるので、
扁桃腺炎や風邪の予防や治療にも有効です。風邪で喉が痛い時に、さじ1杯のマヌカハニーを口に含むように1日数回摂取すると症状を軽減し、治りを早めます。
4)
O-157のような病原性大腸菌やサルモネラなどによる食中毒の予防や治療にも有効です。腸内の病原菌(悪玉菌)の増殖を抑制しますが、乳酸菌などの善玉菌はむしろ増やす効果があります。蜂蜜に多く含まれるオリゴ糖は乳酸菌を増やすプレバイオティクス(prebiotics)としての効果もあります。したがって、腸内細菌を善玉菌優位にして腸内環境を良くし、腸の働きを良くする効果も期待できます。
5)マヌカハニーの利点は抗生物質のように耐性菌が出現しないことです。さらに、
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus; MRSA )のように多くの抗生物質の対して耐性を獲得した多剤耐性菌の治療に対してマヌカハニーが有効であることも報告されています。したがって、抗がん剤治療中や、手術後、お年寄りや病弱な方など、免疫力が低下している場合は、日頃から摂取しておけば、日和見感染症を含め、様々な感染症の予防に効果が期待できます。マヌカハニーが免疫細胞を活性化して免疫力を高める効果を持つことも報告されています。
6)また、末期がん患者に対する延命効果が報告されています。これは、感染症の予防や治療効果の他に、がん細胞の増殖を抑える効果も指摘されています。
7)マヌカハニーは
抗菌作用とともに粘膜や皮膚の傷の治りを促進する作用があります。口内炎の場合は、食後や就寝前に口内炎の部分にマヌカハニーを塗ると治りを早めます。前述のように、蜂蜜は口内炎の民間療法として昔から行われている治療法です。口内炎に直接蜂蜜を塗ると、患部をカバーしてくれるとともに、蜂蜜の殺菌・抗炎症作用によって口内炎の治りを良くしてくれます。日本薬局方でハチミツは医薬品として記載されており、その効果は実証されていると言えます。マヌカハニーは他の蜂蜜よりも抗菌作用が優れている分、口内炎や粘膜の傷の治療に効果が高いと言えます。したがって、抗がん剤治療の副作用として起こる口内炎の治療に試してみる価値はあります。
8)さらに、スリ傷や切り傷や火傷やアカギレにも、マヌカハニーを塗ってガーゼで覆って治療に使えます。
創傷の治癒を促進する効果は古くから利用され、臨床試験でも有効性が報告されています。がん治療に伴う治りにくい傷の治療にも試してみる価値はあります。
9)蜂蜜は、ブドウ糖や果糖やオリゴ糖のほか、各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸が豊富で、
高い栄養価とカロリーを有するので、がん患者さんの栄養補充にも極めて有効な食品と言えます。抗菌成分のメチルグリオキサールは熱や光にも安定なので、いろんな料理に利用することもできます。

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