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「異才発掘プロジェクト」が目指す「ふつう」の世の中

湯浅誠社会活動家・東京大学特任教授
イスを持ち上げて話す中邑賢龍・東大先端研教授。異才発掘プロジェクトは何をするのか

「異才発掘プロジェクトROCKET」

東京大学・先端科学技術研究センター(先端研)で奇妙なプロジェクトが進行している。

その名も「異才発掘プロジェクトROCKET」

2014年に始まった先端研と日本財団の共同プロジェクトだ。

説明文には「突出した能力」「イノベーションを起こす可能性のある異才を育む教育環境」という言葉が並ぶ。

天才教育なのか?

巨大なオブジェの前に集まるROCKETのスタッフと子どもたち(ROCKET提供。以下同じ)
巨大なオブジェの前に集まるROCKETのスタッフと子どもたち(ROCKET提供。以下同じ)

異才発掘と地域コミュニティ?

ところが、主宰する中邑賢龍(なかむら・けんりゅう)教授は、意外にも目指すのは「地域コミュニティの復活」だと言う。

「異才発掘」と「地域コミュニティ」がどうつながるのか?

中邑賢龍教授に聞いた。

「おれは暴走男だ」と笑う中邑賢龍教授
「おれは暴走男だ」と笑う中邑賢龍教授

相当に変わった子たち

――どんな子どもたちを対象にしているんですか?

相当変わった小中学生の子どもたちが相手だ(笑)。

キノコの話しかしなくて、日本のトリュフを追い求めている子とか、

学校の成績は悪いが、じいちゃんとイノシシ獲って暮らしている子とか、

逆に全国模試で常に5本の指に入るほど勉強ができ、学校では学びたりないと感じている子とか、

家庭や学校が合わずにいじめられてた子、暴れて病院に入れられていた子、

そんな子たちだ。

生意気で、聞かん気が強くて、時間守らなくて、下手するとすぐに手が出るような、

学校も家も困っているような「扱いにくい子」だけを選りすぐっている(笑)。

キノコの話しかしない子が小田原で採取した日本のトリュフ
キノコの話しかしない子が小田原で採取した日本のトリュフ

こんな家イヤだ、こんな学校イヤだ

――なんだかすごそうですね(笑)。小中学生の子どもたちがどうやって応募してくるのですか?

全国説明会をやって、それをメディアに取り上げてもらうと、

それを見て、こんな家イヤだ、こんな学校イヤだという子が、毎年550~600人、応募してくる。

その中から「相当だね」という子をピックアップして会いに行く。

知床から宮古島まで、これまでに3~400人の子どもたちに会ってきた。

やはり、行ってみて、どういうところで、どんな生活をしているのかを見ないとわからない。

本人の意思確認が大前提だから、親が応募してきた子どもはとらない

ROCKETプロジェクトに全国から集まった子どもたち
ROCKETプロジェクトに全国から集まった子どもたち

3分の1は書字困難

――どんな子どもたちが多いですか?

いろいろだが、3分の1は書字困難を抱えている。

知的レベルは高いのだが、書けない、書く速度が遅い。

自分の思考速度やイメージに、実際に書く速度が追い付いていない。

そうすると、理解しているのに、テストの出来は悪い

他の子と同じか、それ以上にわかっているのに30点しかとれない。

ワープロで代替することで対応できる子もいるが、学校はまず認めない。

まったく書けないわけでなければ、本人も気づかない。

「おれは書ける」という意識があるからだ。

イヤになって、どんどん勉強が遅れていく。

書字障害のある中学3年生の答案。理解しているが、書けない
書字障害のある中学3年生の答案。理解しているが、書けない

負のスパイラル

そういう子が、中学校高校に進んでから、じゃあどうすんだとなるが、どうしようもない。

学校の先生は小学校からやり直せと言うが、これこそ本人の自尊心が許さない

結果として、暴れるか、ひきこもるか。

精神疾患を引き起こしてしまう子もいる。二次障害だ。

負のスパイラル。

私たちは、これを防ぐためにやっている。

「負のスパイラルを防ぐためにやっている」と言う中邑教授
「負のスパイラルを防ぐためにやっている」と言う中邑教授

モノとカネで防ぐ

――どうやって防ぐんですか?

世の中は書字障害を訓練で治そうとするが、長年の経験から言わせてもらえば、訓練する間に書くのが嫌いになってしまう

近年では、そうするとすぐに発達障害と診断して薬を飲ませるが、薬を飲んで治るわけではない。

私たちはモノ(テクノロジー)とカネで防ぐ。

モノで胃痛を治す

私はもともと実験心理学の研究者で、人間の感覚機能を測定していた。

あるとき、広島県の山奥の重度障害者施設に行ったとき、そこの医者が「おまえ、この人たちしゃべれるようにしろ」と。

「胃が痛いというが、薬飲ませても治らない。たぶんしゃべれれば治る」と。

パソコン使って表現できるようにしたら、胃痛が改善していった。

カウンセリングよりずっといい(笑)。

それからモノとカネで人を救うという仕事に入っていった。

「大人を見て教育しろ」

その関係で教育現場とも関わりをもった。

香川県の特別支援学校で出会った先生に、

「おまえみたいな頭でっかちのやつに教えてやる」と言われて、街を連れ歩かれた。

ふらっと家に入っていくと、寝たきりや家で囲われて暴れてる障害者がいる。

「昔の教え子たちだ」と。

そして「これが教育だ。役に立ってない」と(笑)。

「おまえは大人を見て教育しろ」と言われた。

学校で教育したり訓練していれば、何かをやっている気にはなれる。

でも、訓練したってすぐには治らないし、間に合わない。 

だからテクノロジーを使おうと。

テクノロジーを活用する

――具体的には、どんなプロジェクトをやっているんですか?

1つはDO-IT Japanプロジェクト

DO-ITは、

Diversity(多様性)、

Opportunities(チャンス)、

Internetworking(インターネット)、

Technology(テクノロジー)の略。

テクノロジーを活用した学びの保障を行う。

スカラーと呼ばれる子どもたちが、自分の特性を理解し、

特性にあった機器を使いこなし、

その利用を学校などに認めさせる。

それをサポートするプロジェクトだ。

書字困難を抱えていても、ワープロ利用を認められれば、力を発揮できる子どもたちがいる。

訓練や薬で本人を変えようとするのではなく、本人の特性を踏まえた上で、テクノロジーを活用すればいい

実際、30分の時間延長が認められて、超難関大学に合格した生徒もいる。

DO-IT Japanの様子
DO-IT Japanの様子

「合理的配慮」を求める戦い

DO-ITは、社会に参加する子を育てていく。

だから、世の中に「合理的配慮」を求める。

そのために戦う。

なぜ、この子に30分の時間延長が必要なのか。

なぜ、それが「特別扱い」じゃないのか。

「公平」って何なのか。

「多様性を尊重する」って何なのか。

それを考え、学び、テクノロジーを活用し、認めさせ、社会に参加していく。

どうしても向かない子もいる

DO-ITは私自身が立ち上げたプロジェクトだ。

しかし、そこに集まる子どもたちと向き合っているうちに、どうしても向いていない子たちのいることに気づいてしまった。

ワープロを使うことを保障しても、それが好きじゃない。

集団に入るから、しんどい。

就職しようと思ったら、しんどい。

学校行かなきゃいけないと思うから、しんどい。

ソーシャルスキルトレーニングだろうが、「合理的配慮」だろうが、しんどい。

相当突き抜けてしまっている子たちだ。

集団になじまない子はつぶされても仕方ないのか

じゃあ、その子たちはつぶされてもしょうがないのか。

違う。

たしかに集団にはなじまない。

でも、その子らに料理つくってもらうと抜群にうまかったりする。

イスの修理をさせるととてもうまいという子もいる。

いろんな知識を吸収して論理的にディスカッションすることもできる。

イスを修理してみる
イスを修理してみる

変わった子たちのスペースを

そういう子には「学校なんかいかなくていい。向いていないよ」と言ってあげる必要がある。

もともと一人で生きたほうがいいという子どもたちだ。

だが、その子たちも孤独感は持っている。

理解されない、という孤独感。

だから、その人たちなりのやり方を理解して、信頼できる人を何人かつくる。

そのためにつくったのが、このROCKETプロジェクトだ。

ROCKETは

Room

Of

Children

with

Kokorozashi

and

Extraordinary

Talentの略。

「志と異才ある子どもたちのルーム」。

ルームには、自分たちの部屋、仲間のいる居場所、生きづらさから逃れる避難所、自分が光り輝くスペース…いろんな意味がある。

「不登校だからこそできる学びが、ROCKETにはある」(ホームページより)
「不登校だからこそできる学びが、ROCKETにはある」(ホームページより)

料理でイノベーション

――ROCKETでは、どんなことをしているんですか?

プログラムの柱は6つあるが、

大別して2つのことをやっている。

こちらの用意したことをやってもらうプログラムと、

子どもたちが自分の興味関心を追求するプログラムだ。

こちらが用意して行ったプログラムで、この間やったのは「デジタル飯(デジ飯)」

ここのスタッフの料理研究家・福本理恵さんが考案した。

牛肉、鶏肉、チョコレート、チーズ、じゃがいもなど、いろんな食材をすべて2.5cm角にカットしたものを用意する。

それをキャセロールの中に、タテ3、ヨコ3、高さ3の計27個並べて、電子レンジでチンして、

オリーブオイルと塩で味付けして食べる。

2.5cm角にカットされた「デジ飯」の食材
2.5cm角にカットされた「デジ飯」の食材

ふつうは、バランスを考える。

肉と野菜を合わせるとか、デザート系とか。

しかし、この子たちはバランスを考えない(笑)

チーズとチョコレートとベーコンと牛肉が好きだから、と入れていく。

「1つずつがうまいんだから、全部入れてもうまいに決まってる」と。

変わった少年少女たちはこういうことをする(笑)。

「デジ飯」を「つくる」
「デジ飯」を「つくる」

そうすると、ふつうは大人が止めるだろうけど、私たちは止めない。

チンしたら「あ、溶けた」と(笑)。

でも意外とおいしい。私たちが食べてもおいしかった。

たぶんそれがイノベーションなんだろう、と思う。

スタッフで料理研究家の福本理恵さんが、料理を使ったプログラムを考案する
スタッフで料理研究家の福本理恵さんが、料理を使ったプログラムを考案する

面白さをつぶしてはいけない

イノベーションを生むのは、こういう空気を読まない人たちだ。

ふつうの人たちは空気を読むから、変なことは言わないし、やらない。

間違いなく、この子たちの中から変わった大人が生まれてくるんだと思う。

そういう面白さを抱えた子どもたちをつぶしてはいけない。

うちの研究室では、貧困とかホームレスとか生活保護とか、そういう人たちをアルバイトで雇っているが、その人たちの中には相当考えが面白い人たちがいる。

それを社会が生かし切れてこなかったのだと思う。

「世間の間尺に合わないからと言って、面白さを抱えた子どもたちをつぶしてはいけない」
「世間の間尺に合わないからと言って、面白さを抱えた子どもたちをつぶしてはいけない」

評価軸が一つしかない社会

――なぜ、生かし切れてこなかったんでしょう?

評価軸が1つしかないからだろう。

勉強でもコミュニケーションでも、オールマイティにソツなくこなせる人間が偉くて、それができない人間は失格とされる。

凸凹を認めない。評価しない。

抵抗なく、するーっといける「安全、安心、安定」を求めすぎている。

産業構造が変化して

昔は、それでも生きていけた。

一次産業、二次産業、三次産業が3分の1ずつ存在していて、

それぞれの認知特性、身体特性に合った仕事が手の届くところにあった。

ところが、今や8割以上がサービス産業になってしまった。

サービス産業では、コミュニケーション能力と読み書き計算能力が強く求められる。

それができないと、どうしようもないという絶望に追い込まれる。

いろんな認知特性、身体特性をもつ人たちは、昔からいた。

ぶあいそで、ぶきっちょだけど、ふすまを張らせたら完璧とか。

そういう人たちの中には、今で言うアスペルガーの人たちもいただろうが、それでも食っていくことができた。

今はそれがむしろ難しくなった。

変わったのは世の中のほう

産業構造の質的変化に、もともと持つ認知特性・身体特性がついていけないという問題だ。

変わったのは個人ではなく、世の中のほうだ。

なのに、ついていけないと、すぐに訓練の対象にしたり、発達障害と診断して薬を飲ませたりして、さらに追い詰めていく。

医療機関、教育機関が二次障害を引き起こしている面があると思っている。

私たちのプロジェクトは、その子たちがそのままで、生きていけるスペースを社会の中に作ろうとする試みだ。

あまりにもクリーンで、便利で

――スペースをつくりたい。しかし、DO-ITのように社会の包摂(インクルージョン)を求めるわけではない…。

求めれば、この子たちはつぶれてしまう。

そうやって、つぶされかけてきた子どもたちだ。

今はあまりにも計画的・効率的で、クリーンで便利に生きることが求められすぎている。

それはもう、日常の中に深く浸透しきっていて、ほとんど無意識の、生理的反応に近いものになってしまっている。

快適さに慣れすぎて

たとえば今、ポテトチップスの容器はとても開けやすくなっている。

どこからでも、力を使わずに空けられるように加工されている。

お年寄りも開けやすくするためだそうだ。

だから、外国製のポテトチップスを与えると、子どもたちは空けられない。

「噛み切れ」と言うと「きたない」

「ハサミ持ってきたら」と言うと「めんどくさい」

挙句の果てに「こんなもの、いらない」(笑)。

「こんなもの作っている会社のものなんて、誰が食べるか」と。

ちょっとした虫が飛んでいるだけで、大騒ぎだ。

障害や異物に対して、あまりにももろく、過敏になっている。

いくら英語がしゃべれるようになっても、途上国のたくましい子どもたちにかなうわけがない。

携帯もゲームもなしで、子どもたちだけで旅をさせるプログラムも
携帯もゲームもなしで、子どもたちだけで旅をさせるプログラムも

そういう人たちは「あぶない」人には近づかない。

発達障害や精神障害と言われる人たちを受け入れない。

「変わっているのは悪いことじゃない」と言う。

「多様性は大事だ」と言う。

でも、するするっとできない人を見ると、すぐにいらいらする。

快適さに慣れすぎて、耐性がなくなってしまっている。

もう待っていられない

それを変えていくことは必要だ。

しかし、待っていられない子どもたちもいる。

その間に、この子たちはつぶされてしまう。

「変わり者」と言われるたくさんの人たちとつきあってきたが、そうやってつぶされて自ら命を絶ってしまった人もいた

「おれたちみたいな人間をつくっちゃいけない」と言っていた。

そこまで追い詰められなきゃいけないことなのか。

それで、ROCKETを始めた。

相当にややこしい人たちとのつきあいがなければ、ROCKETは生まれなかっただろう。

世間に広く受け入れられるプロジェクトではないだろう。

でも、こういうプロジェクトがなければ、救われない子もいる。

「世間には理解されないだろう。でも必要なことだ」
「世間には理解されないだろう。でも必要なことだ」

不登校はチャンスだ

――これから、どうしていこうとしているんですか?

この子たちがつぶされないスペースをつくり、広げたい。

不登校というのはすばらしい(笑)。なんと言っても時間がある。

10月は、アウシュビッツとサイバスロンに行ってきた。

8月に提案して、行きたい人は一週間で応募書類を書くようにと言うと、

みんな必死で調べて書いてくる。

そして10月だというのに、全員が参加した。

すごいことだ(笑)。

自ら体験し、議論する

アウシュビッツは、言わずと知れたナチスの強制収容所。

サイバスロンは、障害者の能力を拡張する技術の大会。

「アウシュビッツとサイバスロンに、いったい何の関係が?」と言うから、

それを考えるのが今回の旅だ、と。

そして両方を見た後で、喧々諤々の議論をする。

最終的には、優性思想だということになった。

一方は技術を悪用した例、一方は技術を善く用いた例で対照的だが、

早く走れること、よく見ること、能力の高いことがすばらしいという発想は同じ。

同じ評価基準・指向性が自分たちの中にもあり、同時に、同じものが自分たちを苦しめているとも知る。

そうしたことを、自分で体験し、議論することが大事だ。

アウシュビッツを訪れた子どもたち
アウシュビッツを訪れた子どもたち

公教育ではできない

こういうことは、公教育ではできない。

何のためにどこに行くのか、目的、日程、意味のすべてを確定して、

時間を守って、集団で行動して…とならざるを得ない。

この子たちは、行くことすらできないかもしれない。

不登校はチャンスだと感じてもらいたい。

自分を責めるのではなく、自信をもって、本人の中にスペースを広げていってもらいたい。

地域コミュニティそのものを

そして、物理的にもスペースを広げていきたい。

先端研ではかなり自由にやらせてもらっているが、まだ足りない。

私たちはアカデミーリゾートと呼んでいるが(笑)、

ROCKETのセンターを中心に地域コミュニティそのものを作っていきたい。

アカデミーリゾートのイメージ(illustrated by CHO-CHAN)
アカデミーリゾートのイメージ(illustrated by CHO-CHAN)

「ちょっとこれ手伝えよ」と言えるような

センターへのアプローチを歩いていると、パン屋とか魚屋とかの商店があって、

「よう、どこ行くんだ」と呼び止められる。

「ROCKETに行くんですよ」と言うと、

そんなとこ行ったってつまんねえだろ。それより、ちょっとこれ手伝えよ」と声をかけられる(笑)。

「え~」とか言いながら、結局丸一日汗を流す

そんなコミュニティが欲しい。

炭窯再生を通して土木工事を学ぶ
炭窯再生を通して土木工事を学ぶ

学びを保障しつつ、選択肢を広げる

今、料理をつくるながら5教科を学べるというプログラムづくりをやっているが、

どんな仕事の中にも、国語や算数、理科や社会の基礎知識が入っている。

それを体系化できれば、

「ちょっとこれ手伝えよ」を通じて不得手を補償し、学びを保障することもできる。

そして、仕事や仕事をする大人の姿を通じて、

こういう生き方でもいいんだということも知りながら、人生の選択肢を広げていく、

そんなコミュニティだ。

仕事する大人たちの姿から学ぶことは多い
仕事する大人たちの姿から学ぶことは多い

手のひら返したように?

なにも特別なことじゃない。

昔はどこにでもあったような場所だ。

そうしたスペースがあれば、子どもたちはつぶされずに生きていける。

起業してイノベーションを起こすような子も出てくるかもしれない。

こういう子たちが活躍するようになれば「なんとなくこれでもいいんじゃないか」と思う社会的雰囲気も生まれるだろう。

扱いにくいと敬遠していたのが、手のひら返したように寄ってくるかもしれない(笑)。

目指すは「ふつう」

「異才発掘」などと聞くと、ぎょっとするかもしれないが、

私たちがやっていること、目指していることは、別に変わったことじゃない。

「ふつう」のことだ。

でもそれこそが、いま難しくなってしまっている。

だから、世間の間尺に合わなくても、

徹底的に排除されたり、追い込まれたりして自信喪失させられることなく、

こだわりを生かし、好きを伸ばして生きていけるようにすること、

そういうスペースを提供する試行実験をやっている。

大人の問題

それにたっぷりと、継続してつきあえる大人がいない。

その大人たちの余裕のなさが、子どもたちを追いつめている。

子どもたちの「問題」なんじゃない。

12月19日(月)には、第3期生のオープニングセレモニーを公開イベントとして行う。

「マインクラフト」というゲームを通じて学びと仕事をつなげていく新しい試みも紹介する予定だ。

先端研の研究員が3ヶ月特訓して、熟達した(笑)。

「遊び(ゲーム)」を遊びで終わらせないためには、社会に「あそび」が必要だ。

それが創造性の源となる。

「ふつう」じゃなくなった世の中に「ふつう」を取り戻したい大人たちにも、ぜひ参加してもらいたい。

傘の柄に鹿の角。自作のオリジナル商品を得意げに掲げて「はい、ポーズ」。この子たちに付き合える大人たちがどれくらいいるだろうか
傘の柄に鹿の角。自作のオリジナル商品を得意げに掲げて「はい、ポーズ」。この子たちに付き合える大人たちがどれくらいいるだろうか
社会活動家・東京大学特任教授

1969年東京都生まれ。日本の貧困問題に携わる。1990年代よりホームレス支援等に従事し、2009年から足掛け3年間内閣府参与に就任。政策決定の現場に携わったことで、官民協働とともに、日本社会を前に進めるために民主主義の成熟が重要と痛感する。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授の他、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長など。著書に『つながり続ける こども食堂』(中央公論新社)、『子どもが増えた! 人口増・税収増の自治体経営』(泉房穂氏との共著、光文社新書)、『反貧困』(岩波新書、第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞)など多数。

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