郷原弁護士のコンプライアンス指南塾

コンプライアンスの根幹は「需要に応えること」 郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原信郎

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大企業による重大かつ深刻な不祥事が相次ぎ、企業のトップが引責辞任に追い込まれるケースが後を絶たない。こうした不祥事を防止するための取り組みとして、2000年前後から日本の経済社会に浸透してきたのが「コンプライアンス」だ。とはいえ、それが本当に、実質的な機能を果たしているのか、建前だけに終わっているのではないかが、ここへきて問われ始めている。

今や、コンプライアンスとは何かということを根本的に考え直し、実践につなげていくのは待ったなしだ。連載第1回目の今回はまず、今年4月に表面化した三菱自動車の燃費不正問題を通して、企業のコンプライアンスを見つめ直してみる。

コンプライアンスとは社会の要請に応えること

「コンプライアンス」という言葉を辞書で引くと、最初に上がってくるのは「法令順守」。しかし、私が常々強調しているのは、コンプライアンスとは「定められた法令や規則に違反しないように行動すること」を意味する法令順守ではなく、「組織が社会の要請に応えること」である。

企業組織において「社会の要請に応える」ということは、「社会の需要に応える」ことだ。需要に応える商品やサービスを供給する事業活動を行う企業が、売り上げを伸ばし、利潤を得て存続していくことができるというのがマーケット・メカニズムであり、「企業は第一次的には、需要に応える事業活動を行うことを通して社会の要請に応えることができる」というのが市場経済の原則だ。

しかし、社会の要請がすべて需要に反映されているわけではない。需要に反映されなくとも、応えるべき重要な社会の要請もある。自然環境に悪影響を与える組織活動を制限すべしという「自然保護に関する要請」、組織の活動によって人の生命身体を害したり、危険を生じさせたりしてはならないという「安全に関する要請」、企業活動上、不可欠な情報の入手や活用に関する個人情報の保護、プライバシー保護などの「情報に関する要請」も、極めて重要な社会の要請だ。これらの「需要に反映されない社会の要請」は、応えることが利潤獲得につながらないので、要請に応えさせるためのインセンティブを与えることが必要になる。

民間企業にとって、コンプライアンスとは、需要に反映された社会の要請に応えていくと同時に、需要に反映されない様々な社会の要請にもバランス良く応えていくことだ。このような社会の要請の中身は、その時々の社会の環境変化に伴って変化し、その変化が「要請に応えること」に関して相互に影響を及ぼす(例えば、需要が変化したり、競争環境が変化したりすれば、それに応じて、安全のためのコスト削減や、雇用の非正規化、人員整理等をせざるをえなくなり、安全や労働に関する社会の要請に応えることに影響が生じる)。

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