米、尖閣で中国との事前協議を要請 12年の国有化直前
【デモイン(米アイオワ州)=吉野直也】2012年に民主党の野田政権が沖縄県・尖閣諸島を国有化する直前、当時のキャンベル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)が中国と事前協議を重ねるよう日本側に要請していたことが明らかになった。国務省が29日に公開したクリントン前国務長官が公務で使っていた私用メールの中で分かった。
メールはキャンベル氏が国有化の約1週間前に当たる12年9月3日、複数の国務省高官に宛てた10行足らずの文章で、当時国務長官だったクリントン氏にも転送された。「佐々江との電話」との表題で始まるこのメールは、当時の佐々江賢一郎外務次官(現駐米大使)が電話でキャンベル氏に尖閣の国有化の方針を伝え、その直後に同氏が書いたものだった。
メールでキャンベル氏は「(前月の)8月7日に東京を訪れ、佐々江と日本政府に(国有化の)計画を北京と協議し、通知するよう促した」と説明。「日本は一連の検討を終え、中国側は明らかに激怒している。佐々江は中国が(国有化の)必要性を理解し、いずれ受け入れると信じている」と報告したが、かっこに「私にははっきりしない」と付け加え、日本側の認識を不安視した。
キャンベル氏は「日本政府と尖閣の所有者が売買額で合意した」と明記する一方で「購入を目指した当時の石原慎太郎・東京都知事が納得しないかもしれない」との解釈も付記した。
当時の尖閣の国有化に際して米側が抱いていた懸念がこうした文書の形で判明したのは、初めてとなる。日本が尖閣を国有化した当時、野田政権内には事前に尖閣の国有化を中国に伝え、中国側から了承を得たとの証言もあった。だが、それがどういったレベルの了承なのかをめぐって懐疑的な見方があった。
尖閣国有化の後、日中間の緊張が高まり米側の予見通りになった。メールを通じて野田政権が「中国が(尖閣の国有化を)いずれ受け入れる」と、中国の出方を見誤っていた点も明確になった。尖閣問題で中国につけいる隙を与え、オバマ米政権が掲げるアジア重視政策に影響が及ぶことを嫌うキャンベル氏の姿勢も浮き彫りになっている。